製造業でリモートワークはできる?導入の流れや活用事例を解説
近年、働き方改革の推進により、リモートワーク(テレワーク)による柔軟な働き方が求められています。製造業はリモートワークが難しい業種といわれていますが、不可能ではありません。製造業でリモートワークを導入するための流れや活用事例を紹介します。
新型コロナウィルスの流行や、政府が掲げる働き方改革により、テレワークの普及推進が積極的に行われてきました。
リモートワークを導入する企業も増え、さまざまな業界で取り入れられています。
では、現場での作業が多くリモートワークの導入が難しいといわれる製造業はどうでしょうか?近年、製造業でもリモートワークを取り入れた柔軟な働き方が求められています。
今回は、製造業でリモートワークを導入する際の流れや注意点をまとめました。導入した企業の事例も挙げたので参考にしてください。
尚、総務省はテレワークを「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。
ここでは、リモートワークを「会社以外で就業する柔軟な働き方」として、テレワークと同じ意味合いで使用します。
製造業でもリモートワークはできる?
結論から言うと、職種によっては製造業でもリモートワークが可能です。
製造業は、工場など現場で作業するだけではなく、事務・営業・企画・研究開発・設計・生産技術などさまざまな職種があります。
なかでも事務や営業は、リモートワークを取り入れやすい職種です。
しかし、製造設備や製品を扱う技術や技能職でのリモートワーク導入は、簡単ではないでしょう。
製造業でテレワークが難しい理由
国土交通省の調査によると、製造業でテレワークを導入している企業は、約3割でした。
製造業では、なぜテレワークの導入が進まないのでしょうか。
主な理由は以下の3つです。
- セキュリティを確保しづらい
- リモートワーク環境を整えるコストが高い
- 現場でしかできない工程が多い
それぞれ解説します。
セキュリティを確保しづらい
製造業は企業秘密に関わる業務が多く、セキュリティ管理が難しい業種です。
企業の資産でもある開発段階の設計書や図面など技術情報を扱うこともあり、外部に漏れないよう万全の注意が必要となります。
オフィス内であればセキュリティ対策は管理されていますが、リモートワークで外部から自社へアクセスする場合、家庭用ネットワークや無料Wi-Fiによる情報漏洩のリスクが高まります。
またパソコンの紛失やのぞき見により、情報が外部に漏れてしまう可能性もあるでしょう。
製造業でリモートワークを進めるには、強固なセキュリティ対策が必要不可欠です。
リモートワーク環境を整えるコストが高い
リモートワークを取り入れるためには、環境を整えなければいけません。
どのような準備が必要か、以下に例を挙げてみましょう。
- セキュリティ対策の強化
- 自宅での通信環境やモバイル機器の準備
- チャットツールやオンライン会議、ファイル共有システムの導入
- システムやセキュリティの管理者
- 工場での遠隔監視システムの導入
リモートワークの環境を構築するには、多大な費用がかかります。
現場でしかできない工程が多い
現場でしかできない作業が多いのも、製造業の特徴です。
例えば、部品の組立や品質管理を行うには、専用の機械や設備を使うため現場でしか作業ができません。
商品開発や設計など技能系の業務では、研究室や試験場での実験が不可欠です。
また設計や分析ツールなど、容量の大きいデータを扱えるハイスペックなパソコンも必要です。
最新の遠隔システムを使えば、業務の一部をリモートワークにできる可能性があります。
しかし、すべてを遠隔システムで行うことは難しいうえ、問題が発生した際は現場に出向く必要もあるでしょう。
リモートワークしやすい業務と難しい業務
製造業でリモートワークを導入するには、取り入れやすい業務から少しずつ進めるのがよいでしょう。
ここでは、リモートワークしやすい業務と難しい業務を解説します。
リモートワークしやすい業務
人事や経理、総務などの事務や営業は、リモートワークしやすい職種です。
業務をアナログからデジタル化することで、リモートワークが可能となります。以下にポイントをまとめました。
- 紙文書をすべて電子化(ペーパーレス化)する
- 押印の廃止もしくは電子印鑑を取り入れる
- コミュニケーションツールやWeb会議ツール、ファイル共有管理ツールを取り入れる
事務や営業でリモートワークの導入に必要なペーパーレス化を進めるためには、押印の廃止または電子化が必須です。
コロナ禍で多くの企業がテレワークに移行した際、押印だけのために出社しなければいけないことが問題になりました。
政府もテレワーク推進のため、2020年に押印の見直しを行っています。
押印の廃止や電子化により、資料や契約書など書類のペーパーレス化が可能となり、テレワークの導入につながります。
このように事務や営業は業務のデジタル化で、リモートワークに移行しやすいでしょう。
リモートワークが難しい業務
一方、リモートワークが難しいのは、現場で行う業務がある職種です。以下に例を挙げました。
- 工場内で行う製品加工や組立
- 品質管理や倉庫管理
- 試験場や研究設備が必要な研究職
- 設備の保守・管理
- 社外秘データを扱う商品開発や設計
これらの業務は、多くが現場で行われます。
現在のテクノロジーでは実現が難しいですが、将来的にAIの進歩で自宅から社内設備の遠隔操作や監視ができるようになれば、リモートワークも可能となるかもしれません
製造業のリモートワークの効果
製造業でリモートワークを導入すると、さまざまな効果が期待できます。
- 通勤時間の短縮によりプライベートな時間が増え、モチベーションアップにつながる
- 通勤時間を資格取得や勉強の時間に充てることができ、スキルアップにつながる
- 外出の必要がないため、そのぶん資料の作成など事務作業ができる
- 遠隔地に住んでいる、または育児や介護で出勤が難しい人も働けるチャンスとなり、優秀な人材が確保しやすい
- 対面に比べリモートは1人で作業をこなさなければならず、自分で調べて解決できるようになる
- 社内の電話や来客の対応がなく、業務に集中できる
- 不要な打ち合わせや会議が減り、生産性がアップする
リモートワークを導入することで、従業員のモチベーションやスキルアップにつながり、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。
リモートワークのデメリット
リモートワークには、デメリットもあります。
特に製造業は、リモートワークが可能な職種と不可能な職種があり、デメリットにつながる可能性も。
- リモートワークできない部署からの不満や反対意見の噴出
- リモートワークができる職種とできない職種の従業員間で確執ができる
- 自己管理が求められオンとオフがあいまいになる
- 社内コミュニケーションが取りづらくなる
- 社内教育や指導がしづらくなる
- 仕事の進捗状況の把握が難しい
- 不在の従業員が多いほど電話対応など、仕事が増える可能性がある
リモートワークを導入する前に、考えうるこうしたデメリットの対策を考えておきましょう。
リモートワークを整備する
製造業でリモートワークを導入する際は、環境整備が必要です。
大きく分けて5つあります。
- 業務の見直し
- リモートワークできる業務の洗い出し
- リモートワークの日数調整
- 制度やルールの策定
- リモートワークが可能な環境の整備
それぞれ説明します。
1.業務の見直し
まずは現状を把握しましょう。
会社全体の仕事の流れやそれぞれの部署の業務をすべて洗い出し、可視化します。
その際、従業員にヒアリングしながら進めるのがおすすめです。
従業員と確認作業を共に行うことで、一人ひとりに当事者意識が芽生え、リモートワークへの理解も得やすくなります。
以下に該当がないかチェックしましょう。
- 属人化している作業
- ルールが不揃いな業務
- 無駄または、重複している作業
- 簡素化できる作業
特に無駄な作業や簡素化できるものは、すぐに改善することをおすすめします。
また、業務の工程を明確化しルールを整理することは、リモートワーク導入以前に、業務の効率化につながるでしょう。
2.リモートワークできる業務の洗い出し
リモートワーク導入の際は、対応しやすい業務からスタートするのがおすすめです。
業務の可視化で、リモートワーク可能な作業が把握できます。
例えば、集計作業や資料作成などパソコンがあればどこでもできる事務的な業務は、リモートワークに向いているといえます。
資料など書類のペーパーレス化は、どこでも作業できるうえ、社内での共有も可能です。
さらにチャットやWeb会議ツールを利用することで、従業員間のコミュニケーションや会議、研修も可能となるでしょう。
また、クラウドツールでデータ管理をすることで、リモートワークで工場の稼働状況などが把握できる場合もあります。
このようにリモートワークが難しい現場の業務も、リモートワーク可能な作業の洗い出しができます。
3.リモートワークの日数調整
次にテレワークの日数を決めましょう。
慣れないうちからいきなり毎日テレワークにすると、混乱する可能性があります。
業務にもよりますが、そもそも毎日テレワークすることが、必ずしも良いとは限りません。
従業員間の雑談からアイデアが生まれることもあれば、対面でのコミュニケーションは、オンラインでは言いづらい悩みや困りごとの相談の場にもなります。
出勤日を設定したり、テレワークの上限を決めたり、業務に合わせて調整していくのがよいでしょう。
4.制度やルールの策定
リモートワークの導入前に社内制度や運用ルールを整えることで、スムーズに移行できます。
リモートワークは、従来の働き方とは異なるため、制度やルールが整備されていなければ、社員が混乱しかねません。
そこで、ルールづくりに必要な項目を明確にします。
以下に例を挙げました。
- リモートワークの対象者
- 労働時間や勤怠管理
- 就業場所
- リモートワークの実施頻度
- 人事評価
- 業務連絡や報告の方法
- 通信費や水道光熱費の負担
- 情報の持ち出しルール
制度や運用ルールがまとまり次第、従業員に周知し社内のコンセンサスを得ることが大切です。
社内でスムーズに理解を得るためにも、各部署の代表メンバーでリモートワーク推進チームを設置し、ルールづくりを進めるのも効果的かもしれません。
5.リモートワークが可能な環境の整備
リモートワークにあたり環境を整備することは、業務の効率化や生産性の向上のための必須事項です。
地震や台風などの自然災害や、感染症の流行などで出社できない事態が発生した際のBPC対策にもなります。
※BPCとは、Business Continuity Planの略で事業継続計画のこと。
以下にポイントをまとめました
・クラウドツールの導入
社内のコミュニケーションやWeb会議、ファイル共有がすべてオンライン上で可能に。
・業務用スマートフォンの貸与や内線の設定
スマートフォンがあれば、固定電話で受けていた外線の取次や転送の手間が省け、内線を使えば、どこにいても連絡がOK。
・自宅の通信環境を整備
・資料や契約書など書類のペーパーレス化
・押印の廃止と電子化
製造業のリモートワーク導入事例
リモートワークを導入した企業の事例を紹介します。
株式会社LIXIL
- 従業員の勤務形態を通勤型と在宅型に分ける
出社日数によって通勤と在宅に分け、それぞれ通勤手当や在宅勤務補助手当を支給。
オフィスの環境も整備し、従業員がコミュニケーションを取りやすいよう工夫しています。
テレワークの導入で、2021年度の残業時間が2019年度と比べ約9時間減少し効果がありました。
参考:https://work-holiday.mhlw.go.jp/detail/04517.pdf
株式会社ブリヂストン
- IT技術を整備し、テレワークを推進
RPAやIoTの導入を進め、2018年にテレワークを拡充。
利用方法は、外出先から帰社せずカフェで作業をしたり、自宅で海外との電話会議に参加したりします。
またペーパーレス化の推進により、リモートワークがさらに進んだ事例もあります。
※RPAはRobotic Process Automationの略で、ソフトウェアのロボットによりパソコン操作などを自動化すること
※IoTはInternet of Thingsの略で、ものをインターネットに接続する技術
リモートワークに切り替える際の注意点
リモートワークに切り替える際に対策をしておきたい注意点を解説します。
セキュリティ対策
セキュリティ対策の強化は、最重要項目といっても過言ではありません。
キュリティ対策が施されたオフィス内と違い、
自宅など外部から自社データにアクセスすると情報漏洩が発生するリスクが高まります。
考えられるリスクは以下の通りです。
- 自宅でのネットワーク利用による情報漏洩
- 個人所有のパソコンがウイルスやマルウェアに感染
- 無料Wi-Fiの使用による情報漏洩
製造業は、開発中の案件など秘匿性の高いデータの扱いが多い業種です。
そのため、セキュリティ対策を万全に、パスワードの強化にも気を配るなど対策が必要となります。
常に最新のセキュリティ状態を保つよう、アップデートを忘れないようにしましょう。
またカフェやコワーキングスペースなどで作業をする際は、パソコンの紛失やのぞき見による情報漏洩の可能性もあります。
こうしたリスクを回避するためには、情報の取り扱いに関するガイドラインを定め、従業員への徹底した周知が大切です。
自宅のインターネット環境
リモートワークの導入前に、自宅の通信環境を整える必要があります。
主な方法は以下の通りです。
- 固定回線のWi-Fiルーターの設置
- モバイルWi-Fiの貸し出し
- 企業支給のスマートフォンでテザリング
※テザリングとは、パソコンやタブレットをインターネットに接続する際、スマホをモバイルルーターとして使用すること。
通信環境には使用する機器や回線でそれぞれメリットとデメリットがあり、どのようなものを使用するかは、社内の事情や業務により異なります。
リモートワークでは、チャットツールやWeb会議ツールを使用する機会も多いため、通信速度にも注意しましょう。
また、ネット環境の整備費や通信料など費用もご注意ください。
リモートワークを導入する前にこうしたことも含めルールを定めておくことで、混乱を防ぐことができます。
コミュニケーションツールの整備
リモートワークの導入で、コミュニケーションが取りづらくなるという不満や課題があります。考えられるケースは以下の通りです。
- 悩みや困りごとの相談がしづらい
- お互いの進捗状況がわからず、サポートできない
- 雑談したりアイデアを出し合ったり情報の共有がしづらい
- 会議やディスカッションがしづらい
2020年の労働調査では、約45%の人が「リモートワークによりコミュニケーションが減った」と回答しています。
出社勤務であれば、雑談からアイデアが生まれたり、お互いの信頼関係を築いたりできます。
特に製造業は、各部署の連携が重要となる業務も多いでしょう。
そのため、コミュニケーションツールを整備し、リモートワークでもスムーズに意思疎通ができる工夫が大切です。
気軽に会話できるチャットツールやWeb会議ツールの導入がおすすめです。
参考:https://www.staffservice.co.jp/nt-files/nr_200617.html
パソコンのスペック
在宅で仕事する際も、オフィスと同様に環境を整えることが大切です。
そのために必要なポイントの一つは、パソコンです。
勤務中は、社内システムにアクセスしたりWeb会議をしたり、複数のソフトウェアを開く機会が多くなります。
業務をスムーズに遂行するには、ある程度のスペックを搭載したパソコンが求められます。
また、設計や解析などの作業には、ツールやソフトの使用が可能な高性能のパソコンを準備しなければなりません。
パソコンのスペックが低ければ、業務の効率も悪くなりWeb会議に参加できないなどトラブルの要因となります。
ただしこの問題は、企業側がパソコンを用意することで解消できるでしょう。
企業が支給したパソコンであれば、セキュリティ対策やトラブルが発生した際には対応がしやすいというメリットもあります。
まとめ
製造業でリモートワークは難しいとされ、導入している企業も少ないのが現状です。
しかし、製造業でも職種によりリモートワークの導入は可能です。
現場での対応を求められる業務では、難しいかもしれませんが、事務や営業などリモートできる業務もあります。
製造業でリモートワークを導入する場合は、出社勤務と並行しながら徐々に進めるのがおすすめです。
リモートワークは、従業員の満足度を高め、モチベーションアップにもつながります。
また、災害や感染症の流行などで出社できない場合も、在宅の体制が整っていれば安心です。
社内や自宅の通信環境を整備したり、ITツールを活用したりして、リモートワーク導入を成功させましょう。